「みんなが憧れるエンジニア」を目指すのは地獄への道かもよ

 アニメ制作でも、漫画家でも、お笑い芸人でも、アイドルでも、基本的にみんなが憧れる職業というのは低賃金のブラック労働と相場が決まっている。

 

これは程度の差こそあれIT業界もしかりで、みんなが憧れるポジション、特に未経験者がやりたいと思ってしまうポジションというのは大体ワナがある。

 

最近のIT業界で言うと、「データサイエンティスト」とか「Web系エンジニア」が分かりやすい例。

 

単純にポジションの取り合いになるから買い手(雇用側)の立場が強くなって価格競争に陥るってのが分かりやすい理由付けだけど、それとは少し別の側面というか見方もある。

 

「名誉」にはめちゃくちゃ金がかかる

 

「憧れの職業で仕事ができる」というプライド自体に値段が付いていて、それは目に見える形で売られてるわけではないけど、実は給料から天引きされてるってカラクリ。

 

なぜお金として差し引かれるかっていうと、みんなが良いと思うものは客観的な価値が伴うので、貨幣に交換できるから。

 

その中でも「みんなが憧れる社会的属性」というのはすごく価値があるので、とりわけ金がかかるわけです。

 

もし「ジブリの映画監督になれる権利」や「AKBのメンバーと結婚できる権利」が売られてたら1億でも払う人は結構いると思う。

 

実際「本を出版できる権利」を売る商売ってのがあって、ネットで「自費出版」でググるとわんさか広告が出てくるけど、それは「本の著者」という社会的属性を名誉だと思う層がいて、一定の換金性があるから。

 

ITエンジニアという職種においても、これと似たようなことがある。

 

同じ仕事内容なのに給料が2.5倍上がった訳

 

自分は最初、ゲームプログラマーとしてゲーム会社に就職した。

その時の月収は15万(額面)だった。ちなみに都内の会社。

 

で、その後ゲーム会社を辞めて普通のIT企業にエンジニアとして就職したら、仕事の内容や求められるスキルセットはほとんど同じなのにいきなり給料が2.5倍になって面を食らった。

 

これは転職それ自体によって給与が上がった面もあるので、単純にゲーム業界とIT業界の給与相場の差額を表してるわけではないけど、基本的にゲーム業界というのは同じエンジニア職でもIT業界全体と比較して給与レンジが一回りほど低い。

 

ゲーム業界で年収400万なら、IT業界に行けば年収500〜600万ぐらいになるイメージ。

 

なぜゲーム業界のエンジニアの給与レンジが低いのかというと、基本的にゲームプログラマーという人種は、ゲームプログラマーに憧れを持ったり、ゲーム制作に憧れて業界に入ってくる人が多いから。

 

ゲーム業界を辞めてIT企業に転職すれば月収が15万アップすると分かっていても、ゲーム作れないなら意味が無いじゃん、と思ってたりする。

 

これはある意味で「ゲームクリエイター」という名誉に毎月15万課金してるのと同じことだとも言える。

 

プライドが手に入るなら給料が低くても幸せなのか?

 

データサイエンティストでもゲームプログラマーでもWeb系エンジニアでも、「本人がプライドを手に入れて幸せを感じられるんなら、別に多少給料低くても良いじゃないか」って考えも一理ある。

 

ただ、これには一つ問題がある。

 

それは、本当にプライドは手に入るのか?って問題。

 

若い頃は割と混同しがちだけど、憧れの職業に付いたからといって、実際にプライドや充足感を感じられるとは全く限らない。

 

人間というのはすごいアナログなデバイスで、いわゆる「やりがい」とか「充実感」とか「プライド」みたいなものは、自分の半径3m以内の人間関係とか評価とかで大方決まってしまったりする。

 

例えば「マルチディスプレイとモダンな開発環境」というイメージに憧れを持っていざ「Web系エンジニア」になったとしても、その現場で自分より明らかに若くて優秀な人に囲まれて、絶対にどうあがいても勝てっこない、明らかに自分は劣っている、と感じたら毎日が苦痛に塗り替わってしまうかもしれない。

 

「名誉」というのは基本的に他人との奪い合いの側面が強いから、自分のプライドをベットしたゼロサムゲームに参加することになる。

 

当然そこにはモチベーションが高く、勝ち気の強い参加者が集う。

 

「なんでこんな名もなき弱小ゲーム会社にこんな化物みたいなプログラマーがいるんだ」みたいな絶望感を味わうこともある。

 

「憧れの職業」でお金もプライドも両方失うかもしれない

 

お金を払った結果それに相当するプライドが手に入るなら、まだ等価交換だから良い。

 

けれど、基本的にやりたくて参入してくる奴が多い競技というのは、全体のレベルが高く、熾烈な競争の中でお金もプライドも失ってしまう可能性がある。

 

実力によって勝ち負けがはっきり付くし、勝ちたいと思ってるプレイヤーが多いし、自分に厳しい人間は他人にも厳しかったりするから、むしろプライドを奪われるリスクがデカかったりする。

 

僕もどちらかというとそっちの部類の人間で、今いる現場でもチームメンバーやクライアントに対して「こいつクソだな。こんな適当な仕事しやがって舐めてんのか」と内心毒づいてしまうこともあるし、あからさまに態度に出てしまっていることもある。

 

これは僕が仕事に対してプライドをかけてしまっているからで、それによって仕事のクオリティが上がる反面、他人に対してどうしても批判的になってしまう。

 

一緒に仕事する人は大変だろうなと思うし、極力抑えるようにはしてても、自分が本気で仕事をすることで少なからず他人のプライドを削ってしまってる面もあるよな、申し訳ないな、って気持ちもあって、だからこそ自分みたいな面倒な人間がたくさんいるような環境では仕事をしたくないと思ってしまう。

 

何が言いたいかというと、世間的な憧れや名誉は実は重要ではなく、半径3m内ぐらいの生活実感とかが「やりがい」や「プライド」の実質であって、むしろみんなが憧れてる業界やポジションは、半径3m内ぐらいで「やりがい」も「プライド」も削られていく可能性が高いかもしれない、ということ。

 

多くの人が憧れてるものに、自分も一緒になって憧れるということは、基本的にはコスパが悪いし、不幸になる可能性が高いと思う。

 

とはいったって、憧れてしまうものはしょうがないし、憧れをコントロールすることはできないから、後は自分で経験したり挫折して実感するしかないんだけどね。

 

だから、こんなことを書いたところでどうということは無いけど、しいて言えるとしたら、早めに憧れの職業に飛び込んで実態を知っておいた方が良いのかもしれない。

 

ずっと大企業勤めで憧れを募らせていって、45歳で満を持してデータサイエンティストやWebエンジニア目指したり、起業目指したりとかは、さすがに取り返し付かないことになりかねないし。

 

たわごとはこの辺で。